
(やりきった,いい笑顔だねぇ〜みんな♡)
前回に続き,日本学級経営学会第7回研究大会の話です。
今回の阿部研究室では,過去最大件数である10件の発表を行いました。発表題目は以下です。
口頭発表
小島貴之・阿部隆幸「学級開きで教師は何を語るのか〜担任教師の質的分析から〜」
髙橋祐哉・阿部隆幸「小学生のペア学習におけるペア変更が「協働」類型化に与える効果の検証」
安藤郁音・阿部隆幸「小学校教育におけるクィア・ペタゴジーに基づいた実践研究」
飴谷彩原・阿部隆幸「Can-Do自己評価が有能感に与える影響」
関原夢実・阿部隆幸「新人女性教師の保護者対応への困り感と支援に関する研究」
若林里歩・阿部隆幸「座席配置と教育観に関する一考察−教室環境づくりにこだわりをもつ教師へのインタビュー分析を通して−
遠藤南葉・小島貴之・阿部隆幸「学級規模ポジティブ行動支援(CWPBS)が学級全体と児童個人に与える影響−小学校1年生の実践から−」
ポスター発表
冨岡義央・髙橋祐哉・阿部翠・石坂麻衣・阿部隆幸「児童が初めてブロックアワーを体験した際の実践研究−子どもの動きと「振り返り記述」に着目して−」
阿部翠・髙橋祐哉・冨岡義央・石坂麻衣・阿部隆幸「小学校算数科における「目標と学習と評価の一体化」した授業が児童の主体性に与える影響についての事例的研究」
宮入響・長谷川侃・種田悟・飴谷彩原・阿部隆幸「児童の学習意欲に関する実証研究−学習計画表を用いた理科の授業実践から−」
いろんな思いが込み上げます。
いやはや10件!
私の研究室では,様々な事情や思いを背景に本学に入学してくることから,学会発表や論文執筆投稿など,およそ大学のカリキュラムで義務として発生すること以外は,情報提供や価値づけはしても,表立っての誘導はしません。もちろん,わたしも研究者のはしくれとして,せっかく教職大学院,そして教員養成学部という教育を研究できる環境としてとってもよい場所に来ているのだから,それを生かして自分のキャリア形成のためにもぜひとも研究をしていってほしいと思っています。こういうことも学生には最初の段階で伝えてはおきます。とはいっても,その後,実際に学生がどの方向へ進むかは学生の選択なので,学生に任せます。
そんなこんなでここまで来ているのですが,今年度は結果,10件の発表となりました。
各自が見つけてきたバラエティに富んだ内容!
「学級経営」学会での発表ですから,大なり小なり「学級経営」に絡んではいますが,内容が様々です。もう,バラバラです。
これが私には嬉しいことです。
各自が自身の興味関心のもと,研究テーマを決めて取り組めた結果です。私も共同研究者として名前を連ねてもらっていますが,各学生が持参した内容を話し合ったり,研究プロセスに参加させてもらっていく中で,私自身が学ぶことが多々ありました。そして,それはアウトプット(学会発表等)することで,世の中に何らかの刺激にもなるのではないかと考えました。たぶん,それって小さな一歩ですけど,後々から見ると,自分や関わってくださった人や世の中に対して大きな一歩になっている可能性はあります。
研究としてはまだまだ不十分というものもたくさんあるでしょう。それでも,アウトプットすることに意味があるという思いを大切に持ちたいのです。
私との関係性から,以下のような提案性があるかなぁと思いました。
自身の教育観と学級開きと担任する子どもたちとの関係性を知ることができました。教育観⇄実践(学級開き)と思いがちですが,子どもたちの状態が強く影響することが可視化されたことはとても大きな発見だったと思います。(小島)。
ペア学習の類型化を学生の方から教えてもらい,私の中で,もともと持っていたグループ学習とのつながりも見えてきました。自身の仮説のもと,新しい知見を生み出しました(髙橋)。
SOGI,クィア・ペタゴジーという考え方を学生から教えてもらいました。衝撃でした。この考え方をもとに小学生に授業をしてみたいというチャレンジングな内容に胸を打たれました。これから実践と研究を積み上げていくべき分野と思いました(安藤)。
主に外国語授業で用いられているCan-Do評価。よりよいものだと言われて実践はしているものの,その効果検証例が少ないことを見つけてきました。Can-Do評価に魅力を感じるからこそ,本当にその効果があるのかを見取ってみたい。その思いに惹かれました。事前の研究デザインの構想をもっとしっかりしておくことでよりよい研究になるよね(飴谷)。
これから教員になるときの自分の強烈な不安を動機として明確なものを導き出すことができました。それでいても現場は実際に入ってみないとわからないことばかりだとは思うけれども「こうしてみたら大丈夫かも」という見立てができるのではないかと思います(関原)。
見た目も中身も天然な感覚で,だからこそ面白い視点で,研究にあまり結びつけることが少ない「座席」に注目して研究していったことは素晴らしいことと思います。座席一つとっても様々な教師の思いが見えてきましたね(若林)。
自らPBISを深く探ってみたいと決めてからの行動は素晴らしいものがありました。「集団」だけでなく,「個」だけでなく,「集団」と「個」の関係性を見ていこうと考えたこととても素晴らしいです。これこそ「学級経営」的な視点だと思いました(遠藤)。
自分たちでブロックアワー実践を計画し,実際に展開させてもらったことはうれしかったですね。「ブロックアワー初体験」の子どもたちがどのように感じてどのように動くのかを伺い知れることができました(冨岡)。
私達が主張する「目標と学習と評価の一体化」を主体性の観点から改めて見てみたこと,大きな価値がありますね(阿部)。
順序選択学習を取り入れて,学習計画表を工夫すれば,子どもたちの授業に対する思いが変わってくることを実感できましたね。教師主導の授業から子ども主導の授業に移行していく時のヒントになるかもしれませんね(宮入・長谷川)
口頭発表もポスター発表も!
今回,従来からあった口頭発表に加えて,ポスター発表も設定されました。
私のゼミは,10件中,7件が口頭発表,3件がポスター発表として参加しました。
こうして新しく設定されたところで発表してみたいと考えたことも,チャレンジ精神旺盛でいいなと思いました。
なんだかうれしかった。
学部生も2人参加!
今回は,学部生も2名参加しました。
過去にも,給食指導を研究した内容を発表した学部生,活動的な授業における教師の介入についての研究を発表した学部生がいましたが,どちらもその時は1名での参加でした。
同時2名は初めてです。
やっと,昨年あたりから私のゼミ内で大学院生と学部生とが一緒になって活動するのが「当たり前」的になってきました。それまでは,私の頭が固くて,どうしても大学院生と学部生の学ぶ内容が異なりそうだと思って,一緒に学ぶ場を設けてこれなかったのです。ですから,学部生が発表をするにしても,多くの発表者が院生ということで,学部生は恐縮したままその時間を過ごすことになり,あまり,「得した感」を持てていなかったのではないかと反省していました。
今回,参加してくれた学部生は,もともと明るくポジティブなキャラクターということもあったのかもしれませんが,日常的に院生と学ぶことが当たり前の感覚になってきており,普通に院生と会話を楽しむようになっていました。
今回の発表後,
「どうだった?」
と尋ねてみたら,
「私が,学部生で,4月から教壇に立つということを把握して,聞きに来てくれているので,質問や意見の背景に温かさや応援が入っていて,とても楽しかったです。なんだか,勇気づけられました。」
と2人とも同じような感想を語っていました。
いやぁ,参加してくださった皆様,ありがとうございます。
研究も実践も楽しむことができる教師を目指して!
来年度も,こんな感じになるかどうかはわかりません。
最初に書いているとおり,学生の選択に委ねているので,4月にどのような学生たちが阿部ゼミに入ってくるかで,毎年,大きくゼミの雰囲気が変わるからです。
今年はこうだったということ。
ただし,来年度も阿部ゼミとして学び続けるであろう学生が6人います。
その学生たちが,今年の熱量を維持しながら自分のやりたいことを突き詰めていくと,このような雰囲気も続いていくことでしょう。
修了,卒業した学生たちは,新任の1年目は難しいかもしれないですが,この「学びの感覚」を忘れないようにして,いてくれたらうれしいなと思います。
幸い,私の研究室の先輩には,修了後も研究の魅力を理解し,続けている前田考司さんがいらっしゃいます。今年も前田さんは発表をされました。
前田考司「児童の振り返り記述の変容に関する事例的研究−小学校5年生「振り返りジャーナル」の継続実践を通して−」
現場の人間でなければ,取得できないデータを計画的に取得して,休日を利用して膨大なデータを分類し,考察しての発表です。すごいことだなと思います。
もちろん,作業中はとても大変で一人で何をこんなことをやっているのだろうと思うことが多々あったことと思いますが,それでも夢中になってしまうということは,そこについ研究することにハマってしまう魅力があるからこそなのですよね。
今回,発表するかどうか悩んだということでしたが,終了後,「発表してよかった」と笑顔で語ってくださいました。
なんか,「そこだね」と思います。
学会発表って,構造が不思議で面白い
セミナーや講座の講師は,講師料や話題提供料のようなものをいただきます。その場合,だいたいが交通費をいただいたり,宿泊を伴う場合は,宿泊費もいただいたりします。講師ということで周囲から少しチヤホヤされることも体験していい思いをすることもあります。金銭的な面を中心に,得るものがいろいろとあります。
しかし,学会発表って,別に誰からも「発表をお願いします」と依頼されたわけではありません。しかも,発表しても講師料はおろか,発表料のようなものは(もちろん)もらえません。なんなら,その日に発生する参加費を支払って発表するわけです。もちろん,遠方で開催されるときは交通費まで自費です。そして,せっかく練りに練って,寝る日も惜しんで準備した発表内容を最後の質疑応答の時間にけちょんけちょんに批判されるときもあります(最近は,少しずつそういう学会は減ってきているように思いますが)。
ね?面白いでしょう。
そんな状態で,なぜに学会で発表しようとするのでしょうか。
(あっ,大学人は実績を取得するために嫌々ながらも学会発表を行う人も実際はいます)
学会で発表する人って,マゾヒストなのでしょうか(笑)。
でもね,体験し続けた人だけが知っている「得体のしれない魅力」があるのです。
ここまでして,発表するのって,究極の(ちと,言い過ぎ)主体性だと思いませんか?
この魅力に取り憑かれた人たちとお酒を酌み交わしながら話してみたいなぁとも思います。
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