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Audibleで出会った30時間超えの大作『人質の法廷』

あいも変わらず,私はAudibleでの読書(聴書?)を楽しんでいます。特に今年は、週末ごとに実家のある福島へ帰省することが多く、片道約4時間という長い移動時間をAudibleを聴く時間に充てています。おかげで、例年よりもAudibleに触れる時間が増え、たくさんの作品に出会ってきました。

そんな中、久しぶりに心に深く残り、ブログに書き残しておきたいと強く感じた作品が、里見蘭さんの『人質の法廷』でした。

【参照】


この作品、何と言ってもその長さが衝撃的で、なんと30時間超えという大作なんです。実際の紙の本は見ていないのですが、レビューによると辞書のように分厚く、しかも2段組だとか。手にしたらその重さに驚くことでしょう。


法廷ものの奥深さと冤罪への疑問

この『人質の法廷』は、私が小説を読む上で特に好きなジャンルである法廷ものです。なかでも冤罪に立ち向かう刑事弁護士が主人公の物語なんです。冤罪を疑われる被疑者やその周辺、そして彼らと対峙する検察側の視点も描かれていて、とにかく内容が重厚でした。

犯人が捕まり、冤罪として仕立て上げられていく過程、そしてその冤罪を晴らすための法廷での攻防が、一つひとつ丁寧に、そしてものすごい迫力で描かれています。「そうなのか!」と唸ってしまう場面も多く、夢中で聴き入ってしまいました。


現実とフィクションの境界線

この作品は取材に基づいて書かれているそうで、フィクションであることは分かっているものの、どこまでが現実を鏡として小説に落とし込まれているのか、非常に気になりました。物語は一貫して弁護士の目線で描かれており、警察、検察、そして裁判官が、権力側の存在として、時には愚かにも、時には嫌な存在として描かれています。

私も弁護士側の視点で聴いていたので、なぜこれほどまでに冤罪が生まれ、犯人ではない人物が犯人として仕立て上げられてしまうのか、不思議でなりませんでした。自白を強いられる場面などでは、これは自白せざるを得ない状況だからしているのではないかと感じずにはいられませんでした。本当の犯人を見つけることよりも、事件を解決し、自分たちの体面を保つことを優先しているように思えてなりません。これはあくまで小説の中の話ですが、現実の世界ではどうなのだろう、もしかしたら小説よりももっと悲しく、危険な状況があるのかもしれないと、ふと思いました。


司法システムへの問いと理想の弁護士像

登場人物のやり取りはさておき、犯人を捕まえ、起訴に持っていくシステムや、勾留中の取り調べの進め方など、公平であるべきはずの検察側と弁護側が、どうにも検察側に有利な状況で始まっているように感じてしまいました。まるで最初から1、2ポイント与えられているような状況で、この構造は民主主義や人権を考えた時にどうなんだろう、なぜ公平な出発点から始められなかったのだろうと、疑問が残ります。

社会のシステムや出世の仕組みを考えると、権力を持つ側が、どれだけ平等や公平を謳っても、最終的には自分たちの足場を揺るがさないような形に落ち着いてしまうのは、ある意味当然なのかもしれません。まるで「偉くなったら社会を変えろ」という『ドラゴン桜』や、『踊る大捜査線』の室井さんのように、「まず偉くなってくれ」というような話なのかな、とも思いました。ただ、偉くなるためには、そうした下々の視点や気持ちを偉くなるまで隠し通さなければならないような側面もあるわけで、本当に難しい問題だと感じます。


深遠な法廷物語と今後の自分

ネタバレになる部分もあるのでこれ以上は深く触れませんが、この作品は本当に濃密で深遠な法廷物語でした。そして、主人公の弁護士さんがとても素敵で、私も彼女のように、しっかりと前を向いて自分の目指すところに向かっていきたいと、改めて強く思いました。

この作品から得た多くの気づきと感動を胸に、これからも様々な本やAudible作品に触れていきたいです。

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