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映画「国宝」に唸る

先日、私は映画『国宝』を観てきました。吉沢亮さんと横浜流星さんの素晴らしい演技に魅了され、まさに期待通りの作品だと感じています。私にとってこの映画は、以前Audibleで聴いていた小説版のダイジェストであり、そして何よりも、私の頭の中で膨らませていたイメージを補完してくれる、そんな存在でした。


小説版との比較:ダイジェストとしての映画


実は私は、2019年にAudibleで『国宝』の小説版を聴いていました。その時のブログにも書いたのですが、私にとってその年は『国宝』が最も感銘を受けた小説で、歌舞伎の世界にどっぷり浸り、まるで大河ドラマを観ているかのように圧倒されたのを覚えています。映画はその世界観を見事に再現してくれていたのですが、3時間という映画にとっては長い尺であっても、やはり小説の上下巻のすべてを盛り込むことは不可能だと感じました。


例えば、主人公が九州から大阪に出てくるまでの電車での出来事や思い、そして二人が疎遠になった時期のそれぞれの葛藤や歌舞伎への取り組みなど、小説では丁寧に描かれていた部分が映画ではカットされていました。小説だからこそ表現できる心の機微や葛藤は、映画という限られた時間の中では削らざるを得ない部分だったのでしょう。小説を読み込んでいた私としては、映像に夢中になりながらも、「あ、この部分はカットされたんだな」と感じる瞬間が所々ありました。


イメージの補完:映像がもたらす感動


そうは言っても、映画が私のイメージを補完してくれたことは間違いありません。小説はあくまで自分の頭の中で繰り広げられる世界ですが、映画が提供してくれたのは、圧倒的な映像美と視覚的な情報でした。目の前で繰り広げられる歌舞伎の演技、役者の表情、そして音の響き。これらは小説では「きっとこんな感じだろうな」と想像するしかなかったものが、映画だからこそ、五感を通して体験できたのです。

小説を読みながら「こんな感じかな?」と思っていたことが、実際に映像として形になり、「ああ、こういうことだったんだ!」と実感できたのは大きな喜びでした。もしかしたらこれは、私の想像力が豊かだったからだと褒めてもいいのかもしれません(笑)。実は私は生の歌舞伎を観たことがなく、ニュースや資料映像でざっくりとしたイメージしか持っていませんでした。しかし、小説を聴きながら想像していた歌舞伎の世界と、実際に映画で観たその圧倒的な美しさや迫力が、思ったほどかけ離れていなかったことに驚きました。もちろん、映像に寄せている部分もあるのかもしれませんが、自分の想像力もなかなか悪くないな、と思える瞬間でもありました。


自分のしごとや生活に寄せて


もう一つ。

こうした映画を見る時,必ず自分の仕事や生活に寄せて考える癖があります。例えば,今回で言えば「一つのことを極める生き方について」ですね。

こうすれば,歌舞伎の世界については触れられないし,どこまで行ったとしても1ファンとしての関わり方しかできないわけですが,一般化して考えることで自分の仕事や生活に寄せて考えることができるわけです。

「極めたいと思うものがある幸せと不幸せ」

一つを極めるということは,他の何かを選ばなかった(捨ててきた)ということにつながるわけですよね。私は性格上,「あれもこれも,やりたいし,知りたいし,深めたい」と思ってしまいます。「深めたい」は一種の極めると近似ですが,その前の「あれもこれもやりたいし知りたい」の方が比重が高いので,結果的に「深める」ことができずに今まで生きてきてます。これはね,自分が選択した経過であり,結果だから,ないものに対して憧れを持つこと同様に「深める(極める)」ことに憧れは残りつつも,仕方ないし,十分幸せだと思っています。これ,あきらめての幸せだではなく,「極めた人たち」では得ることができなかったであろう私の人生があるということ,積極的なポジティブな幸せ感です。

もちろん,繰り返しになりますが私が選ばなかった「極める」側を覗いてみたいという興味関心はありますから,それを疑似体験してもらうためにこのような映画がありますし,大谷翔平さんのような今現在「極めている(極めようとしている)」人物を応援するということを楽しみたいですね。


5年の時を経て、再び『国宝』の世界へ


何よりも嬉しかったのは、2019年に小説を聴いて「もうこの世界に浸れないのか」「この世界とも別れなのか」と寂しく思っていた私が、5年という時を経て、再び映画でこの素晴らしい『国宝』の世界を味わうことができたことです。小説を読んだ当時、「もしこれが映画になったら、どんなに面白いだろう、幸せだろう」と夢見ていたのですが、同時に「映像化するのは難しいだろうな」とも感じていました。

しかし、やはりこの物語を映像化したいと願う人はいたのですね。それをこれほどまでに素晴らしい作品として作り上げてくださった関係者の皆様には、心から感謝の気持ちでいっぱいです。そして、2025年現在の吉沢亮さんと横浜流星さんという、まさに「国宝級」の美しいお二人が主人公を演じてくださったことも、この作品をより一層輝かせていると感じています。映画を観ながら、お二人の顔に見惚れてしまうほど、本当に素晴らしかったです。


もし,映画を見て,俳優さんの他にストーリー(内容)に興味を持った方は,ぜひとも書籍を手にしてみてください。何度か書いてますが,Audibleもおすすめです。何と言っても,歌舞伎の世界の当事者である尾上菊之助さんの読み聞かせが素晴らしいものがあります。


(2025年7月3日記述)

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