
「学級経営アプローチ」とは聞き慣れない言葉である。
著者の佐橋慶彦さんは次のように言う。
本書で取り扱う「アプローチ」とは,「問題の解決,目的の達成に近づくための道すじ」のことを指します。
この「道すじ」の細かい「道すじ」は,あとがき(p172)に書いているが,「問題(課題)や目的」と「提案」の間の過程がしっかり書かれており,「なるほど,だから,こういうことなのね」と読み手が納得できる構造になっている。
これら80種類のアプローチを,自分の実践に照らし合わせるとともに,数多くの文献を参照し整理しているところが素晴らしい。
80のアプローチを以下の7つの章に分類,整理している。
子どもたちとの信頼関係
温かな学級の雰囲気
やる気や主体性
学級の荒れや不適切な行動への対応
子ども同士のつながり
一人一人の自己実現
長期的な視野で見た学級のグレードアップ
学級で生じる様々な出来事は誰かが計画的に行っているわけではないから,順番として整理できないだろう。それらを,この7つはおおまかにではあるが,学級びらきから,学級じまいにかけてゆるやかに時系列のくくりで整理整頓しているように見える。
より良い学級経営をめざしたい。でも,どうしていっていいかわからない,という人はとりあえず,前のページから読み進めていくことで,学級集団の成長をイメージできるのではないか。
この本は,見開き2ページで1アプローチを紹介する形になっていて,左は図解(アプローチ図),右はその図解(アプローチ図)の解説となっている。
ここからは勝手な予想を展開してみる。
最近,佐橋氏と親しくしてもらう機会を得たわたしは,佐橋氏が興味関心をもつ研究一つに「オープン・ダイアローグ」があることを知った。私も,以前,オープン・ダイアローグに興味を持ち,情報を集めたことがある。「オープン・ダイアローグ」の書籍の中に,「オープン・ダイアローグ」をパターン・ランゲージの形でまとめたものがある。
【参照】井庭崇・長井雅史(著):対話のことば−オープンダイアローグに学ぶ問題解消のための対話の心得
「パターン・ランゲージ」とは言えないが,作りがこれに似ている。ここから発想を得たのではないか(間違っていたら……ごめんなさい)。
視覚的にわかりやすくイメージとして脳に訴えて,その後,その詳細を文章で読み解いていく。「わかりやすさ」というか視覚優位で生活していることを心地よいと感じている最近の私たちにピッタリな形での提案の書籍だと思う。
ねがわくば,上の「オープン・ダイアローグ」のように,カード化してもらえたら手元に置けてとてもうれしい。(わたしは「オープン・ダイアローグ」のほうはカードを持っている)また,イマドキをもう少し強調すると,(編集の都合上無理なのだと思うが)カラーでの図解だったらなおうれしかった。
この「学級経営アプローチ」という言葉が一般化して広がるかどうかはともかく,教師が子どもたちの前面に出て,上意下達で学級を収めていくような旧い学級経営観ではなく,子どもたち集団に寄り添い,子どもたちの自己選択,自己決定を促しながらよりよい学級,そしてその先によりよい社会やコミュニティをつくッていくための力をやしなうような,(佐橋氏は明言していないが)教師のファシリテーションの力を生かすようなつくりになっている。
「これからの学級経営」を考えていこうとする教員にとって,手元において役立つ書籍と思う。
こういうアイデアは,わたしには出てこなかった。
このような実践力があり,アイデア豊富な若手実践者がどんどん出てきてほしいし,佐橋氏は今後,若手実践者を引っ張っていく存在なのだと思う。
楽しみにしたい。
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