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「畑作の土づくり」に見る学級経営の本質〜「学級経営の理論と実践」講義から学ぶ〜

(師匠と弟子?いい関係ですねぇ)


本日、「学級経営の理論と実践」の講義で、中学校教員の岡田敏哉先生をお招きし、中学校における「学級経営」の実際と、その深遠な理論についてお話を伺うことができました 。20年以上にわたる学級担任のご経験と、生徒指導主事としての現在の立場から語られる言葉には、現場のリアリティと、子どもたちへの深い愛情が溢れており、私自身も多くの示唆を得ることができました。

教育界で著名な実践家というと,どうしても小学校に偏りがちです。そんな中,中学校の実践や現場を発信している方として岡田先生は全国でもトップレベルでしょう。そういう方のお話を直接伺うことができて充実した時間となりました。

本当に,話がうまいです。首を縦に振り続けていました。


小学校と中学校の「学級経営」観


岡田先生は、小学校と中学校の「学級経営」の捉え方の違いについて、非常に興味深い視点を提示されました 。小学校では学級経営と教科経営が一体となり、担任の先生が一日中子どもたちと関わる中で授業と生活指導を密接に進めるのに対し、中学校では教科担任制のため、学級経営と教科経営は明確に分かれるという指摘です 。私自身、長年教育現場に身を置いていますが、この「見ているところのずれ」は、小中連携を考える上でも非常に重要なポイントだと改めて感じました。私自身は小学校教員として27年間現場にいました。ですので,古い価値観ながらも小学校現場のことやおおよそ想像ができます。一方,中学校現場の実際というと観察や見学等からの想像の域を超えません。また,私の近くに存在した中学校教師というと石川晋(現NPO法人授業づくりネットワーク代表)なわけで,この方を中学校教師の一般とするのは無理があります(笑)。中学校の担任は、一日中教室にいられないからこそ、「セルフサービスで学級システムを動かせる集団」を育む必要があるなど,わかりやすくまとめて提案していく岡田先生の言葉は、学生たちもイメージしやすかったことと思います。

(ビジュアル的にも素敵なので,舞台の上で映えるんだゎ,岡田先生は……かっこいい)


「もやし」と「キツネ」が育む「良い学級」


岡田先生が提唱する「良い学級には『もやし』と『キツネ』がいる」というフレーズは、学級づくりの本質を見事に捉えています 。

  • もやし: 目標(も)、役割(や)、信頼関係(し)

  • キツネ: きまり(き)、つながり(つ)、本音(ね)

これらは、学級が機能し、子どもたちが主体的に活動するための基盤となる要素です。特に、子どもたちが自ら「キツネ」の要素に気づき、学級をより良いものにしていこうとする姿は、まさに理想的な集団の姿だと感じました。

私の研究や実践に結びつけると,最近提案している「学びのモデル」で大切にしたいものと重なったり,最近参考にしているPERMA理論とも重なったりと,いろいろと頭の中で結びつけて消化してました。


学級経営の「核」と「畑作の土づくり」


岡田先生は、自身の学級経営の「核」として、「学級便り」「特別な教科 道徳」「クラス会議」の3点を挙げられています 。

  • 学級便り: 子どもたちの言動の価値を伝え、期待する行動を示すことで、彼らの自己肯定感を高め、成長を促すツールとして機能します 。

  • 特別な教科 道徳: 堀裕嗣氏の「シンクロ道徳」を取り入れ、教科書の内容だけでなく、子どもたちの身近な事象や10年先に生きる知恵につながる問いかけを通じて、深い思考を促している点は、今後の道徳教育のあり方を考える上で非常に参考になります 。

  • クラス会議: 「ありがとう」を言葉にする習慣、全員が対等に発言し、合意形成を経験する場として、子どもたちの「対話で折り合いをつける習慣」や「問題を乗り越える力」を育む強力な実践だと感じました 。


そして、それらの活動を支える根底にあるのが「畑作の土づくり」という学級経営観です 。

  • 「あたたかさ」で土を柔らかくし(耕す)

  • 「協力的雰囲気」でPhを調整し(肥料)

  • 「心理的安全性」で保水性・水はけ・通気性を良くする(固まった土を耕す)

  • 「学級という枠組み」で畝を作り(畝を作る)

  • 「人間関係」を深く広く張りやすくする(根が深く広く張りやすい)

この比喩は、学級を子どもたちが安心して成長できる「土壌」として捉え、その土壌を豊かに育むことこそが学級経営の要であるという、私の考えとも深く共鳴します。温かい雰囲気の中で、子どもたちが互いに助け合い、安心して自己開示できる環境を意図的に作り出すことの重要性を再認識しました。

これは,岡田先生の生活経験やお父さんとの関わりの中から実感を伴って生み出してきたものであり,説得力があります。岡田理論(持論)といってもよいものでしょう。ゆるぎないものを背景に持っている岡田先生は強いし頼りがいがあると感じました。


学力向上といじめ防止への示唆


学級経営が学力向上といじめ防止に深く関係しているという岡田先生の指摘も、非常に説得力がありました 。まとまりのある学級では、学習意欲が喚起・強化され、モデル学習が促進され、学習習慣が定着しやすいというメカニズムは、まさに「子ども同士の良好な関係性」が「学習意欲の高まり」につながることを示しています 。

また、いじめ防止においては、「非侵害的関係」(傷つけられないという感覚)と「友人サポート」の重要性が強調されていました 。教師のサポートや向社会的スキルを高めることで、間接的に友人サポートを上げ、いじめが起きにくい集団を作っていくという視点は、私たち教師が常に意識すべき点です 。いじめは「教師にしか解決できない」が、「いじめを起こさない雰囲気は教師だけでは作れない」という言葉は、私たちに重い課題を突きつけつつも、学級全体でその雰囲気を作り上げていくことの重要性を教えてくれます 。



生徒指導の「今」と保護者との連携


「生徒指導の今」として、時代とともに変化する保護者の学校への期待や、指導のあり方についても具体例を交えながらお話しいただきました 。特に、「事実確認は一斉に、そして同時に行う」ことや、「事実確認と指導は別日に行う」ことの徹底は、トラブルを未然に防ぎ、保護者との信頼関係を築く上で極めて重要です 。こういうことは経験を通して学んでいくものかもしれません。しかし,当事者である子どもや保護者たちは実験材料ではないことも事実です。岡田先生たちのこうした取り組みや考えを学生や初任者,若手教員にしっかり自覚してもらうような授業や講座等々を提供していくのもわたしの役割のひとつなのだろうと考えていました。

岡田先生が強調していた,保護者との「チーム」になる生徒指導  は、子どもたちの成長を支える上で不可欠な視点であり、私たち教員が常に意識し、実践していくべきだと強く感じました。



結びに


岡田先生の講義は、学級経営を単なる「管理」ではなく、子どもたちの「個性」を伸ばし、「社会参画」を促し、「自己実現」を支えるための「文化創造」と捉える視点を与えてくれました 。蕎麦打ちの経験を学級経営に重ね合わせ、「時計と測りだけじゃうまい蕎麦は作れない」というお父様のお話 は、教師の「判断とふるまい」の重要性を象徴的に示しています 。


私自身も、小学校教員27年の経験があります。多くの失敗を経験してきました。しかし、その失敗の積み重ねこそが、今の私を形成していると考えています。岡田先生が最後に未来の先生方へ贈られた「自分の好きをたくさん作っていただきたい。それがどんどん武器にできるのが教職の本当に面白いところ」というメッセージ  は、これから教員を目指す学部生にとって、何よりも心強いエールになったと思います。


今日の講義で得た学びを胸に、私もまた、子どもたちにとっての「温かい土壌」を育むことができるよう、日々研鑽を積んでいきたいと思います。そして、上越教育大学で学ぶ皆さんも、現職の先生方との交流を通じて、ぜひご自身の「オリジナル」の学級経営観を確立していってほしいと願っています 。

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